MGBといえば大衆用スポーツカーの雄として1962年から80年まで生産されたベストセラーカーです。ブリティッシュライトウェイトスポーツやクラシックスポーツカーへの登竜門的なモデルとして、現代でも高い人気を誇る名車といえるでしょう。
先代モデルにあたるMGAが旧式のラダーフレームを持つクラシックなスタイリングのオープンカーであったのに対して、後継モデルのMGBは近代的なモノコックボディにモダンなエクステリアデザインをまとったオープンカーへと大変身を遂げました。
米国市場が主なマーケットのひとつであったため、日本では1973年後半以降に製造された個体=ウレタンビッグバンパー仕様も多く存在しています。
MGBの基本車型は2シーターのロードスター=トゥアラーとなりますが、ピニンファリーナによってファストバック化されたクーペタイプのGTや、そのGTにV8エンジンを積んだGT V8、さらにはストレート6搭載のMGC&MGC GTといったバリエーションも存在します。
なかでも、元々はGMビュイック用として開発されたローバー製3.5リットルV8OHVを積むGT V8(クーペのみ)は、総生産台数およそ2500台とベストセラーカーであるMGBシリーズのなかでもレアな存在で、鋳鉄ブロック製の1.8リットル4気筒エンジンよりも単体で40ポンド(約18キロ)も軽いという3.5リットルアルミ製V8エンジンによるバランスのいいパワフルな走りが、今なお多くのマニアから支持されています。
西川淳の、この個体ここに注目! |
一見、よくあるブリティッシュグリーンのMG Bトゥアラーのように思われます。77年式がベース、と聞けば、ウレタンバンパー仕様からメッキバンパー仕様へのよくあるコンバージョン個体か、とも思われるでしょう。
けれども、よく見るとグリルにはV8の文字が……。実はこの個体、77年式MGBトゥアラー(ロードスター)をベースにGT V8用のローバー製パワートレインを組み込んで73年式MGB GT V8仕様とした非常に珍しい個体なのです。
そもそもトゥアラーにはなかったV8仕様を望んだマニアの声は多く、英国でもコンバージョンは盛んに行なわれたようですが、日本では本物はおろかコンバージョン仕様を見掛けることすら、ほとんどありません。
しかもこの個体、コンバージョンそのものの来歴が素晴らしい。ベースは77年のトゥアラーで、80年代半ばに日本の専門ショップが英国のスペシャリストにオーダー。パワートレーン(エンジンとミッション)をV8仕様に換えて輸入後、まずは人気で定番のマーク1仕様へとモディファイされていました。フロントフードはアルミ製に。エキマニはV8 GT用でマフラーはワンオフのオリジナル。後に登場したRV8用のLSDや、BMCコンペティションの前後スプリングを組み込んだと言います。
現オーナーが取得したのは、90年代半ばのこと。MG Bからブリティッシュスポーツカーライフを始めたものの、コーナリング後の脱出加速がどうにもモノ足りない。エンジンをチューンしたところで低速トルクを失うだけ、ならば、ということでショップに眠っていたV8コンバージョン個体に目をつけたのだそう。
購入時にはマーク1仕様だったものを、GT V8が登場した73年8月のMY74仕様へと再改造し、14インチのGT V8用ホイールを装備、メッキバンパー仕様の特徴であるリアランプ下の鉄板の継ぎ目を再現したり、またトランク前方の継ぎ目を消したり、と、当時の雰囲気の再現にこだわって仕上げています。
政治的な理由(トライアンフとのバッティングを避けた)から回避されたBトゥアラーのV8版でしたが、もしメーカーが造っていればこうなっていたかも、という仕様だと言っていいでしょう。ちなみに、ブリティッシュグリーンへのペイントは日本で行なわれたものだそう。元色は暗めの赤。戻してみるのも一興かも。
目を閉じていればアメリカンV8がやってきたとしか思えないサウンドが聴こえてきました。少しの時間でしたが、ワインディングロードを試走してみましたが、機関の調子は絶好調と言ってよく、特に三千回転を過ぎたあたりからホーリーキャブのセカンダリバタフライが開くと、何とも言えず官能的なサウンドを奏でてくれます。
実測で165ps、26.3kg-mを発揮したというだけあって、小柄なMG Bトゥアラーには十二分。オーナーの言う通り、脱出加速は迫力のひとこと。それでいて扱いきれないほどの大トルクではなく、むしろ扱い易いフラットトルクフィールがストレスのないスポーツドライブをサポートしてくれます。街中(微速域や後進)でも扱い易いのがとても印象的でした。
英国マーケットでMG B V8はコンバージョンでも250万円以上します。日本に輸入してガス検通してナンバー取って、と考えれば、オーナーの希望販売価格はとても魅力的。内外装のコンディションは年式相応で、ボディには凹みやキズもありますが、それもまた装いのひとつです(幌は2年前に交換済み)。クラシックな雰囲気を楽しみながらモダンカーにも負けない(マツダロードスターには負けないでしょう!)性能を満喫できる。なかなか得難い経験になることでしょう。
希望者には、オーナーが長年に渡って収集したMG Bのカタログコレクション60冊も分けていただけるそうです。
年式 | 1977年 |
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初年度 | 1987年1月 |
排気量 | 3,528cc |
走行距離 | |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 右 |
カラー | 緑 |
シャーシーNo | G-HN5-426296G |
エンジンNo | 10A39827 |
車検 | 2020年(R2)2月 |
出品地域 | 大阪府 |