ドイツの合理主義が生んだ 華あるクーペ

第2次世界大戦以降のメルセデス・ベンツのフラッグシップモデルとしては3代目となるW111/W112型。最後のハンドビルドモデルで、高品質な素材がふんだんに使われており、ディテールを含めて隅々まで磨き上げられた工芸品のようなモデルといっていいでしょう。基本メカニズムは先代のW105型譲りでしたが、最新モデルと同様のフルモノコック構造としたのが設計面での大きな変更点です。

ボディタイプはセダン、クーペ、カブリオレの3タイプが製造され、クーペはセダンから2年遅れた1961年に登場しています。直線基調のシンプルなフォルムですが、長い前後のオーバーハング、サイドまで回り込んだリアウィンドウ、メッキパーツを多用した威風堂々の重厚なスタイルは、キャディラックなどアメリカ製大型乗用車の影響を受けたといわれています。

全長は4885㎜、全幅が1845㎜、と現行のSクラスに比べればサイズは少し小ぶりとなりますが、立ちはだかる門構えのような力強さと精細かつ優雅な造形が融合したデザインは、最新のSクラスに勝るとも劣らない存在感があります。また、クラシックメルセデスを代表するアイコンといっていい縦目のヘッドライトもW111型からの採用。本国仕様の異形2灯式でしたが、アメリカ仕様は4灯式となり、趣が異なりました。

クーペのエンジンは発売当初2.2ℓ直6OHC(132㎰)でしたが、1965 年に2.5ℓ直6(150㎰)、1967年に2.8ℓ直6(160㎰)、と年を追うごとに排気量をアップ。モデル末期の1969年には2.8ℓに加えて、3.5ℓV8OHCエンジン(200㎰)を追加するなど、道路環境の発展にともなう高速化とライバルの動向に合わせて進化していきました(1961年~1967年まではフラッグシップのW112型に3ℓ直6も存在)。インテリアはメータークラスターにまで本物のウッドを採用(1967年まで)されていたほか、厚みがありバネの効いた高級ソファのような仕立てのシートを採用するなど、まさに豪華絢爛。さらにトルコンATやパワーステアリング、パワーウィンドウ、4輪ディスクなど最先端装備がモデル変遷の中で次々と標準化されるなど、さらなる高級路線を追い求めたのもこのモデルからです。ちなみに、セダンは1968年で新型のW108型へバトンタッチしますが、クーペとコンバーチブルは1971年まで継続生産されています。

「最善か、無か」。このメルセデス・ベンツの企業スローガンをクラフトマンの手により高いレベルで具現化され、歴代随一の華があるモデルと言えるW111型。現役当時、超高級車として世界中のVIPから愛されたのもうなずけます。


山崎真一の、この個体ここに注目!

日本では数少ない当時の正規ディーラーであるウェスタン自動車が輸入した由緒正しき系譜を持つ1969年式の280SEクーペです。現オーナーがコレクターの方から譲り受けたというその個体はその当時からタイムスリップしてきたようなコンディションで、思わずため息が出てしまいました。正式な整備歴は分からないのですが、前オーナーからは「エンジン、ミッションなどを下ろしてフレームアップレストアが施されているもの手に入れた」とのこと。各部を見れば、それが嘘でないことは一目で理解できるでしょう。また、レストレーションの際に全塗装も行われ、明るいホワイトから高級感あるガングレーメタリックに塗り替えられています。エンジンルーム内も同色に塗装されるなど徹底的に手が入れられているのですが、若干塗装剥げが出ており、色替えと分かってしまうところが数少ない残念なポイントです。ボディ全体に多用されているメッキパーツも曇りや腐食もなく、輝きも十分。ボディ全体を際立たせてくれています。

シートは高耐久素材のMBTEXレザーで、色は落ち着きのある深い茶系。ヘタリはもちろん、サイドサポートの擦れ、ほつれなども見受けられず、ウォールナットもウッドも割れや反りなどもなく、内装は古さを見つけるのが難しいほどです。エンジンもキーをひねれば難なく目を覚まし、アイドリングも不安な兆候はありません。オリジナルのBEHR製のクーラーは凍えるぐらいの性能を発揮し、真夏でも水温はピタリと安定。機関もしっかり整備されていることがうかがい知れました。ステアリングホイールやシフトノブなど普段触れる部分も使用感はほとんどなく良好です。

試乗をしてみましたが、現行車に比べると変速ショックは大きめに感じますが、滑りもなく安心できます。何より驚かされるのはボディの堅牢さ。50年前の車とは思えないしっかり感と体に伝わる心地よさはまさにメルセデスの真骨頂といえるでしょう。定期点検さえ行えば、このまま普段の足、移動手段にも十分使えると感じました。

空力や環境性能への配慮、コストダウンも考慮しなくてはならない今の時代にはない圧倒的な存在感と細部にまで手抜かりなしの優美なデザイン。そして、フルリフレッシュ済みの安心感。コンディションの良さで選ぶならこれ以上の個体に出会うことはなかなか難しいのではないでしょうか? ぜひ、ご自身の目で確かめていただきたいと思います。

車両スペック

年式1969
初年度19691
排気量2,778cc
走行距離32,276km
ミッション4AT
ハンドル
カラーグレー
シャーシーNo111024-12003242
エンジンNo
車検201912
出品地域大阪府
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