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メルセデスベンツ190SL
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Challenge Classic - MERCEDES BENZ 190SL

メルセデスベンツ190SL
words / Jun Nishikawa

メルセデスの入門クラシックカーに乗ってみた!

名車300SL ガルウィングとほぼ同時にデビューしていたのが、190SLである。だから、この二台は、丸いヘッドライトの顔つき、ウィング形状のオーバーフェンダーなどなど、見ためにもとてもよく似ている。デビューした当初、300SLはガルウィングのクーペモデルのみの設定だったことから、同じタイミングにコンバーチブルオンリーでリリースされた190SLが、ほとんど300SLのロードスターモデルに見えるのも、言ってみれば“戦略的に当然”のことだったのだ。そして、300SLの本当のロードスターはといえば、顔つきが縦目ベンツ風にガラリと変わることになる。
実際には、300SLのように凝ったスペースフレームボディ構造ではなく、セダンW121のモノコックボディを流用し、そこにWウィッシュボーンシャシーを組み付けた安価なロードスターというのが190SLのポジションだった。ボディサイズもひとまわり小さくて、車名が示すとおりエンジンも105馬力の1.9リッターSOHCだった(300SLは215馬力の3リッターSOHC)。8年間の生産台数も300SL系にくらべれば、そのほぼ十倍のオーダー、約2.6万台である。それだけ、このスポーツカーがお買い得で支持されていた、ということだ。
メルセデスベンツ190SL
メルセデスベンツ190SL
そんな出自をもつメルセデスのオープンカーだからこそ、クラシックカーの入門車として最適である、ともいえよう。クルマの作りが基本に忠実で、しっかりとしている。セダンの派生モデルだから、修理やメンテナンスにしても、手に負えないような事態にはなりにくい。パワーも手頃で、文句ナシに格好いい(そりゃそうだ、300SLとほぼ同じ)オープンカー、そして300SLに比べれば当然、今も比較的安価、となれば、楽しまない手はない。ちなみに、流通世界相場は、ピンで10万ドル、キリで4万ドル、あたり。
台数が多いため、300SLほど高価に取引されることもなく、また、世界的名声の定まったクルマでもないがゆえに、190SLの楽しみ方はいろいろだ。もちろん、オリジナルコンディションを楽しむのが基本、というのはクラシックカーのセオリーだが、今回の取材車両のように、モディファイしても格好いい。クラシックカーベースゆえの格好よさ、とでも言おうか。古いレーシングカーへの漠然とした憧れがカタチになったようで、そこには強烈なオリジナリティと個性の発揮がある。外しの美学、だ。
190SLには、モディファイに格好のお手本がある。ファクトリーがレース用に数台のみ造ったSLR(R=レーシング)だ。
この数台、というところがミソ(おそらく8台前後と思われる)で、要するに“そんなものはどこを探したって出てきやしない”。そして、“出てきたとしてもおいそれと買える金額じゃない”。どころか、“仮にホンマモンを手に入れて乗っていたとしても、とてもホンマモンには見えない”(ホンマモンステッカーを貼って走るわけにはいかない)。だったらいっそ、リクリエイションで楽しむのもアリ、という“計算”だ。
ちなみに、レプリカで楽しめる台数と楽しめない台数の境目は、個人的な肌感覚だけれども、おそらく生産台数が30台以内か。それ以上だと、イベントなどで、ホンマモンが横に並んでしまう可能性がある。日本のコレクションを見くびってはイケナイ。
メルセデスベンツ190SL
メルセデスベンツ190SL
さて。今回借り出した190SLも、判で押したようなSLRリクリエイションだ。前後のバンパーを取っ払い、フロントウィンドウをフレームごと外して、小さなスクリーンを付ける。内装をひっぺがして、むき出しスパルタンに。いかにもクラシックレーサーなバケットシートとステアリングが、一転ハードコアになった室内によく似合う。内側のドアノブにいたっては革ひも!ちょっと太めのタイヤを履かせて車高を落とし、サイドに穴を開け、クラシックなレーシングカーラインを引いて…。ルーフなんか、もちろんない。お見事!
このスタイルが「どこまでホンマモンに近いか」なんてカンケーない。ホンマモンに似せることが、このクルマの楽しみ方じゃないからだ。それに、ホンマモンだってレース用だから、いろんな仕様があっただろうしね。それよりも、“乗って楽しみたい”と思わせる抑制の利いた演出が大事。
実際に乗ってみると、これが面白いんだなあ。はっきり言って、パワーフィールなんかはノーマルと変わらない。スポーツカーとしては別に速くもなんともない。けれども、小さなスクリーン、むき出しのインテリア、尻がハマって抜けないタイトなシート、立派なエグゾーストサウンド、そして全体の振動。そういう要素がこつぜん一体となったとき、乗り手は素直に楽しいと思える。
ちなみに、このクルマを駆って桐生のクラシックカーイベントに出場したが、イベント会場からガレーヂまで、大雨に祟られた。クルマごと、ずぶずぶになったけれども、“オレはMだったか?”と自問するほどに、楽しかった。一蓮托生感が、機械との友情を生むというか、えがたきパートナー感覚が芽生えるというか…。クルマを好きでいて良かったなあ、と思える瞬間だ。
クルマを操ることの楽しさって、結局のところ、ハンドリングとか乗り心地と加速の速さとか、そういうのだけじゃなかった。その前に、根源的に、音と風と振動があったのだなあ、と改めて思い知らされた。+ニオイ(ガスとオイル)もね。だからこそ、クラシックカーへの思いは募るばかり。趣味のクルマは、うるさくて、震えていて、風を巻き込んで、ガソリン臭くてナンボ、ってことなのかも。
メルセデスベンツ190SL
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。